道元禅師によって開創された永平寺は、曹洞宗の両大本山の一つとして、その壮大な伽藍(がらん・寺院の建物のこと)を福井県吉田郡の幽谷に横たえています。
永平寺の伽藍は過去幾度となく火災に遭っており、改築を重ね、また諸々の行事を記念して新築・増築を行い、現在に至っています。


永平寺の中心建物は七堂伽藍(しちどうがらん)と呼ばれます。
これは中国禅宗の様式に由来するもので、永平寺のように古式に準じて整った伽藍を備える寺院は全国でも数少ないといわれます。

○仏殿(ぶつでん)
七堂伽藍の中心にあり、御本尊様を祀っています。明治35年(1902)の改築で、覚皇宝殿(かくおうほうでん)ともいいます。
須弥壇中央に「釈迦牟尼佛(しゃかむにぶつ)」、左右に「阿弥陀仏(あみだぶつ)」と「弥勒仏(みろくぶつ)」を安置します。
右奥壇には伽藍の守護神である「大現修理菩薩(だいげんしゅりぼさつ)」と「土地護伽藍神(どじごがらんじん)」、左側にはインドから中国に禅を伝えた 「達磨大師(だるまだいし)」と道元禅師様の師匠である「如浄禅師(にょじょうぜんじ)」が祀られています。
欄間には12枚の禅の公案を基にした彫刻が施されています。

○法堂(はっとう)
長い階段を上りきった最上部にあり、一般の寺院でいう本堂です。1843年の改築で、間口は18間ある大木造建築です。住職の説法、毎日の朝のお勤め、 その他各種の法要などが行われています。上段には「聖観世音菩薩(しょうかんぜおんぼさつ)」が祀られています。

○僧堂(そうどう)
仏殿の西側に位置し、修行僧が毎日坐禅に励む根本道場です。修行僧にはこの僧堂内の畳一畳分が与えられ、その一畳のスペースで睡眠し、坐禅し、食事をとるのです。
中国宋代の形式で、建坪100坪、明治35年の改築です。中央には文殊菩薩(もんじゅぼさつ)が祀られています。

○東司(とうす)
僧堂の南にあり、一般でいうお手洗いです。「鳥蒭沙摩明王(うすさまみょうおう)」が祀られています。修行道場においては、東司に入り用を足すことさえ 尊い修行であり、浄と不浄の分別を越えて身心と国土までが清浄になることをめざすのです。2000年に立て替えられました。

○浴司(よくす)
山門東側にあり、一般でいうお風呂です。昭和55年の改修で、「跋陀婆羅菩薩(ばっだばらぼさつ)」 を祀ります。ちなみに僧堂、東司、浴司は「三黙道 場(さんもくどうじょう)」とよばれて、私語にふけることは固く禁じられ、特に沈黙を保ち修行することが要求されます。
世俗的にいえば風呂や便所ではリラックスして隣の人と楽しく談笑でもしたくなるところですが、修行僧は行住坐臥、常に弛むことなく厳しい修行を積んでいるのです。

○大庫院(だいくいん)
仏殿の東側に位置し、一般寺院の庫裡(くり)にあたります。ここで、修行僧及び来客者の食事が調理されます。昭和5年の改築で、回廊に面した中央部には 「韋駄天(いだてん)」が祀られています。また、その脇に有名な大すりこぎがつるされています。二階には瑞雲閣といわれる賓客の接待所、三階には150畳 の大広間があります。

○山門(さんもん)
現存する最古の建築物で1749年の造立です。中央上部に掲げられた「日本曹洞第一道場」の額がその格式を表しています。
両側には四天王が祀られ、外部から魔が入り込めぬよう見張っり、二階部分には「五百羅漢(ごひゃくらかん)」が安置されます。
修行僧は入門初日にまずこの山門前で、吹雪の中何時間も棒立ちにたたされて、門をくぐる許可を待たねばなりません。入門の意志の固さが試されるのです。
その時目にはいるのが両側にかけられた聯(れん)で、
「家庭厳峻にして陸老の真門より入るを許さず」
「鎖鑰放閑さもあらばあれ善財の一歩を進め来るに」
(たとえ名誉や財産がある有名な者であっても、この門を気軽な気持でくぐる事はできぬ。しかし真実の仏法を参究しようという道心を持つ者ならば、この門はくさりもカギもないから、自由に入って修行をすることができる)
この句に、これから待ち受ける修行の意義と永平寺の歴史の重みを改めて感じることになるのです。

七堂伽藍の他にも歴代住職を祀る「承陽殿(じょうようでん)」禅師様の居室「不老閣(ふろうかく)」、全国の信徒の為の法要を行う「祠堂殿(しどうでん)」、宿泊者のための道場「吉祥閣(きちじょうかく)」等の建物があります。
     

 

永平寺では、住職である禅師様(不老閣猊下)を頂点として、「役寮(やくりょう)」といわれる、全国の曹洞宗寺院の住職から特に選ばれた高徳の僧侶が30名前後常在し、永平寺の運営と修行僧の指導にあたっています。

修行僧は雲水(うんすい)とよばれます。毎年春と秋に多くの雲水が全国から上山します。修行年数は特に期限があるわけではなく、本人の意思により自ら決定します。
修行僧は定められた規則に基づき毎日の修行に励みます。修行僧にはそれぞれ配役が与えられますが、その配役には、役寮の従者、本堂の係や鳴らし物の係、 法要の進行係といった、いわゆる僧侶らしい役割の他にも、受付係や来客係、宿泊者の係や火防係、食事係や風呂の係まであります。いったん配属されたら向き 不向きに関わらず、その役割を一心にこなすのが大切な修行です。
配役ごとにその内容や作法は細かく決められており、ひととおり覚えるだけでも大変です。
その合間を見て自らの坐禅修行を両立させねばなりません。
また、与えられた配役は一定期間ごとに更新され、会社でいうところの人事異動のように、新たな配役がいい渡されるのです。
それにより、ある配役の内容を覚えて心の余裕ができた頃には、また別の部署の新入りとして一から覚えねばなりません。そうして、配役が代わるたびに、余裕から生じる怠惰心に甘えることもなく、常に初心に返った緊張した修行が保たれるのです。
そして、厳しい修行の中で苦労を共にし、同じ釜の粥をいただいた修行仲間との絆は、生涯を通じてかわることない尊い宝となるのです。

 

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