『典座和尚の精進料理』

  ~家庭で楽しむ110レシピ

 

株式会社 大泉書店

2008年10月30日刊行

オールカラー208ページ 

編集協力 梅津由美子氏

デザイン 熊谷智子氏

人物等撮影 楠聖子氏

漆器協力 吉田屋漆器店(福井県鯖江市)

版元絶版となりましたが、現在個人再版の特別注文受け付け中です。詳しくはこちら 期間数量限定です

永平寺東京別院長谷寺の典座(総料理長)をつとめた著者が、退任後に自然豊かな故郷の禅寺の住職となり、修行時代に学んだ精進料理の技と心をあますことなく盛り込み、一般向けにわかりやすく書き上げた一冊。

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目次

○今こそ精進料理を
○調理法別精進料理レシピ
 煮る、あえる、炒める、揚げる、焼く、
 蒸す、寄せる、ご飯もの、おかゆ、
 汁もの、麺類、漬けもの
○もてなしの精進料理
  一汁五菜の本膳仕立
  二汁七菜の二の膳仕立
○精進料理の技
○精進料理を読む
  典座教訓を読む
  赴粥飯法を読む
  精進料理の歴史
○コラム
 和合の心、あえる極意
 精進料理に用いる食事の制限
 献立作成のコツ
 胡麻豆腐ともてなしの心
 精進料理と茶道
 もどき料理
 お粥の功徳
 雲水と麺
 雲水とたくあん
 残った食材を利用して
 サバの作法

 

 精進料理というと堅苦しく、敷居が高いように感じる方も多いのではないでしょうか。
確かに、大本山の監修を得て発刊された著者の前2作『永平寺の精進料理』と『永平寺の心と精進料理』誌は、修行道場の厳粛さと格調を伝えています。今まで門外不出とされてきた、修行道場に伝えられている精進料理を詳細に知ることができる反面、ともすれば「さすが修行道場、厳しいなあ。なんだか私の生活とは別世界の話だわね」で終わってしまい、読者の実生活に直接つながっていかないのでは、という悩みを内包しておりました。

 そこで本著では、副題にあるとおり、「家庭で」という視点に立って編集されました。
今でも永平寺に伝えられる道元禅師の食の教えはたいへん素晴らしいものですが、その作法をそのまま一般家庭に取り入れるのは無理があります。

 そこで、まずは堅苦しい作法や教えなどはいったん忘れ、本をパラパラとめくってみた上で、「ああ、これおいしそう!」「これなら私にも作れそう」と思える精進料理を見つけていただきたいのです。
 そして、まずは自分が気に入った料理を自分で作って、食べてみる。
 「う~ん、思ったような味が出ないな?」「ああ、これは思ったよりもおいしいわ!」
 などなど、ともかく精進料理に親しんでいただきたいという気持ちから製作されました。

 料理長をつとめた経験から申しますが、実際、料理係に配属される修行僧の9割近くの者がそれまでほとんど料理経験がありません。中には、キャベツと白菜の違いもわからない者や、包丁を生まれてはじめて持った者もいるくらいです。ところが、毎日台所で野菜と格闘し、「あー、今回は味が薄すぎた、次はもっとコクを出したい、それにはどうすれば良いんだろう?」といった具合に、少しでもおいしい料理を作ろうと努力を続けていくうちに、誰もがおいしい料理を作れるようになるのです。 

本来、修行というものは、そんな短期で成果が現れるものではありません。しかし、料理という、自分が今目の前で取り組んでいることであれば話は別です。上手にできた、失敗した、次はこうしてみたいというように、具体的な目標を持つことができ、またその日の料理の結果を得ることができます。
 私も修行時代、一生懸命がんばって料理した日に、先輩や仲間に「今日の料理、なかなか良かったぞ」と言われることがなによりの励みになりました。
 そうした日々の努力と工夫を重ねていくうちに、僧侶としての修行も深まっていくのではないでしょうか。

 修行僧に限らず、食事は毎日の私たちの生活に欠かせません。
自分で作った料理を食べる。まさに、毎日結果をダイレクトに知ることができるのです。

 ともかく、なにごとでもそうですが、きっかけはどうあれ、自分が興味を持ったことというのは、より深く知りたくなるもの。
 料理を好きになってのめり込むことができればしめたものです。
 きっと、精進料理の世界をもっと深く知りたくなることでしょう。

 そのときこそ、本書の後半部分をひもといてください。
あえて前半・中盤部分には書かずにおいた、精進料理の教え、心、技術、そして歴史などの読み物がまとめて配置されています。

 また、あえて料理を作りながら味わった方が理解しやすい一部の教えについては、コラムというかたちで料理部分にも散りばめてあります。

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 つまり、まずは堅苦しい部分はいわば後回しにして、前半部分の料理を実際に調理して楽しみ、興味が湧いた方は、後半の読み物に進んでいただくという構成になっているのです。

 家庭で楽しむことができるように、使用する食材はふつうのお店で手軽に入手できるものを使っています。また特別な包丁の技や飾り切りなどの調理技術が必要ないよう、誰でも作ることができる献立ばかりを選んでいます。

 日常の料理で利用しやすいよう、調理法別に分けられた構成となっており、また本格的に精進料理でもてなしたい方のために、二種類のお膳仕立ての献立も掲載されています。
 また普段の調理で出る残り物や、食材の皮や根などの廃棄してしまいがちな部分を無駄にせずうまく利用して活かす献立も掲載されています。

 「素朴な料理ではあるけれど、食べてみておいしい、作り手の暖かい心が伝わる」、まさに精進料理の心を表した料理ばかりが厳選されています。

 また本来、野菜や海藻、乾物などを使って調理する精進料理は、健康維持にも大きな役割を果たします。
 現在メタボリックシンドロームが社会問題になっていますが、ローカロリーで、体によい野菜の豊富な栄養分をバランス良く口にすることができるため、健康的な料理として精進料理は注目を浴びております。
 家庭で手軽に作ることができる健康料理の教科書としても大いに役立つことと思います。

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またもう一つの本書の特徴は、掲載された調理写真を、全て著者自身が撮影するという、出版業界でも大変珍しい試みがなされております。
 つまり、著者自身が調理し、うつわや背景をセットし、カメラで撮影し、レシピを作成し、本文を執筆してできあがった本なのです。いわば、調理、執筆、撮影 を著者が一手に引き受けた、たいへん注目すべき取り組みです。

 通常はカメラマンや編集者、ライター、フードコーディネーターと、一連の作業を分業して制作されるわけですが、あえてそれを著者一人が取り組んだのは、著者のイメージを表現するために、自分自身でそれを完結したいという願いからです。料理人が、「この料理はこれが売りなんだよな」と思って調理し、盛りつけたとしても、うつわの選択や撮影の視点などによって、その意図が十分に活かされないこともまれにあります。
 もちろん、そうならないようにお互い意思疎通のためのコミュニケーションを欠かさないようにするわけですが、実際の撮影では時間の関係もあり、初対面のスタッフと取り組んでもなかなかうまくいかないこともあるのです。
 もちろん、すぐれたカメラマンさんやコーディネーターさんが担当してくだされば、料理人が思っているイメージを押さえた上で、さらにその実力以上の仕上がりに高めてくださることも多いのですが、そうした気心の通じたスタッフを何日間もお願いすると、今度は予算面での問題が生じてしまいます。

 あまり長期間にわたって一流のスタッフをお願いすると費用が高くなるため、なるべく短期間で調理を行う必要があるわけですが、どうしても時間を気にして急いで調理を行うと肝心の料理自体が雑になってしまいがちです。また、著者は一寺院の住職をつとめる僧侶でもあるため、撮影期間中でもお檀家さんの葬儀等、やむを得ない急務が入る可能性があります。そうした諸事情もあって、今回あえて著者自身が全てを担当することにより、著者の表現したい世界が比較的ストレートに出すことができました。

 もちろん、プロの写真家が撮影した写真とは比べるべくもない稚拙な仕上がりの写真もありますが、逆に料理人ならではの視点で撮られた作品も少なくありません。料理を作らずとも、写真を眺めるだけでも楽しむことができます。

 また、全て著者が手がけることにより、採算を度外視し、また撮影に関わる費用を抑えたことにより、レシピの点数とフルカラー本としては破格の低価格で発行することができました。
 こうした価格設定も、なるべく多くの方に、精進料理の素晴らしき教えを伝えたいという著者の願いによるものです。

 

お供えの作法

また本書には仏事の基本としての「お供えの作法」の項目が掲載されているのも注目すべき点です。
 住職として檀信徒の法務を日々おこなう著者ならではの配慮とでも申しましょうか、最近若い方を中心に、お仏壇にお供えするお膳の作法や、お彼岸のおはぎやぼたもちの作り方、お団子の作り方などを知らない方が増えております。
 自分にとって大切な方のご命日などにあたり、まごころを込めた精進料理をお供えし、お線香をお上げして手を合わせ、良き供養をしていただければとの想いから、基本的なお供えの作法、うつわを置く位置や盛りつけの決まりなどが詳しく解説されています。
 いざというときに知っておきたいお供えの作法、是非ご一読いただきたいと思います。

 

 

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