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手打ちソバ その6 余談雑話

 年越しソバの話題で6回分もかかってしまいました。しかし画像が多い方が挑戦しやすいでしょうからお許し下さい。年末の休みを利用して、ぜひ手作り年越しソバに一度チャレンジしてみて下さい。たとえあわや失敗でも、自分で作ったソバなら愛着がわいておいしく感じるものです。

 さて昨日アップした完成画像を見て、自称ソバにうるさい○さんという方からメールをいただきました。いわく、「掲載されているのは管理人さんが作った手打ちソバの写真ですか?だとしたらずいぶん汁の色が薄めですね」とのこと。

ご回答しますれば、間違いなく自分で撮影した写真です。

おそらく汁の色については不思議に思われる方もいるだろうなあ、とは思っていました。それでもあえて汁の色がわかるように季節はずれのガラス製を使ったのは、後日ソバつゆについての補足説明をしようと思っていたからです。

メールをいただいた○さんに刃向かうわけではありませんが、いわゆるソバ好きにとっては、ソバの作法という厳然たるルールがあるのは私も知っています。それを守ってソバを食するのが「イキ」なのです。ふだん穏やかな方が、ソバの話題になると突然人が変わったように息があらくなって「ソバとは!」と言い出すことがよくあります。

たとえばソバ好き同士がよく盛り上がる定番の議論として以下のようなものがあります。(何度延々と終わらぬ主張を聞いたことか・・・これらの話題が出るとお互い譲らずエンドレスになり、最悪の場合ケンカになるか険悪な空気になるため、早々に立ち去る方が良いでしょう。

○「ソバは挽きたて、打ち立て、ゆでたてを食べるのが一番。

いや、打ってから一晩寝かせて熟成させたほうがうまい!」

※ちなみに上記の「三立て」にソバの実をとりたてを加えて「四立て」

といいます。またソバをひくのは前日が良いか当日かを論ずることも。

○「このソバは釜が早い。イヤ、釜が過ぎる。」

※ゆでが足りない=釜が早い ゆですぎ=釜が過ぎる と表現します。

○「二八ソバというのは、つなぎが2でソバが8の割合だからそう呼ぶ。

いや、江戸時代にそばを二×八=16文で売っていたからだ!」

○「ソバは一番粉(ひいて最初に出る真っ白い粉)で作ったのが一番。

外皮以外を全て使った、黒い田舎そばの方が味があってうまい!」

※一番粉で打ったソバを「更科系」ともいい、信州更科ソバのように

白いソバになります。粘りが少なくつなぎなしで打つのは困難です。

○「ソバを食べるにはネギが欠かせない。いや、ネギなぞ邪道、

ワサビだけが一番だ!」

※同種の論議に、おろし・しょうが・大葉・ミョウガ・とろろなど。

また、山菜そば・カレーソバ・天ぷらソバなどについても同じ。

○「秋に収穫されるソバを新ソバという。いや夏にとれる方が新ソバだ!」

○「そば粉は水でこねた方が良い、いや、お湯の方が粘りが出て良い!」

※粘りけが少ない更科系のソバはお湯で練る場合が多いようです。

中でも、今回メールをいただいたように、ソバのつゆに関して特にこだわりを持つ方が多いようです。実際、修行道場で、ソバの汁が気に入らないと、ある老師に延々と叱られたことが懐かしく想い出されます。

ソバの汁は通常「返し」といわれるもとを使って作ります。

まずみりんと砂糖を加熱し、溶かしてドロドロにします。みりんが沸騰すると火がつきますが、かまわず消えるまで燃やします。みりんが沸騰して三十秒くらいしたらしょう油を加え、表面に泡が出たら火を消します。または好みによってしょう油を加えてさらに加熱し、沸騰させても良いです。

この甘辛い濃いめの汁を「返し」とよび、常温で一週間くらいおいて熟成させ、それをダシで加熱しながら割ってソバの汁が作られるのです。

みりんと砂糖を沸騰させた時点で火を止め、しょう油を入れたら加熱しない方法を「生返し(きがえし)」とよび、しょう油を入れたら泡が出たくらいで火を止めるのを「沸騰なしの本返し」省を入れてさらに沸騰させるのを「沸騰ありの本返し」といい、前者ほどしょう油の辛さというかしょっぱさが強く、後者になるほど丸い味になります。

さらに、みりんと砂糖の量、そしてダシと返しの割合によって、濃い汁と薄い汁ができるわけです。その辺はもはや好みの問題なのですが、総じて関西系はダシを効かせた甘めの汁、関東、特に江戸は濃い汁を好む傾向があります。

江戸で流行した濃い付け汁の場合は、ソバをちょっとだけ汁につけて、すぐにすするのが作法でした。正直言ってそのままでは飲めないくらいの濃くてしょっぱい汁に、ちょこっとだけソバを沈めて食べるのがイキだというわけです。今でも、頑固親父がいるソバ屋さんで「汁が足りないから足して下さい」なんていおうものなら「お客さん、ソバってのはそんなに汁をつけちゃあだめなんだよ、ソバの味が台無しだあ」なんて言われてしまいます。

(ちなみに先日テレビの子供向け番組で「アンパンマン」というのを見ていたら、「かつお節マン」とかいうキャラが、ソバに汁をたくさん付けて食べていたバイ菌マンを叱っていました。)

私が経験した範囲ですのであまり正確ではありませんが、永平寺でも、どうも戦前~昭和前半くらいまでは、ソバを食べる時にはこうした江戸風の汁の食べ方が主流だったようで、今でも老師の中には「ソバの汁が薄すぎる!!」とか「最近の若いもんはソバの食べ方も知らんのか!」と言い出す方がおられます。実際、非常に濃い汁なので各自に配る汁の量は非常に少なくすみ、胡麻豆腐を盛りつけるくらいの小さな「猪口(ちょく)」とか「坪(つぼ)」に半分くらい汁をつぎ、それにちょっとだけソバをからめて食べよ、そして汁の補充は許さん、と申されるのです。給食で育った世代はもはやそんな作法は知らず、かけそばのような飲みきれる濃さの汁があたりまえだと思っていますので、その作法をしらない若い雲水からは、「おいおいなんだこの濃い汁は?」「ソバの汁が足りない!」と苦情がくるし、かといって薄くすれば老師に叱られるし、典座寮も板挟みで大変です。

もちろん、そうした伝統的な作法の大切さはよくわかりますし、貴重なしょう油を無駄にしないように、なるべく少ない汁で食べるという精神も理解できます。

しかし、個人的には、そうした汁の場合濃くて飲めないため、結局片付けの際には残された汁を結局たくさん捨てることになるのです。また、ふるえるほどしょっぱい汁は体にも良くないように思います。

したがって、私はそうした永平寺や江戸前の作法を十分知った上で、あえて薄味のダシを効かせた汁を作る主義です。昆布の香りが立ちのぼる関西系の汁に、ソバを十分ひたしからめて食べます。しょう油の辛みが足りない分は貝割れ大根や大根おろしが補ってくれます。むしろ、薄めの汁の方がソバ本来の味が楽しめると思います。その上、最後に汁をそば湯に混ぜて飲めば汁も残りません。

また、「一度で良いからソバにたっぷりの汁を付けて食べたかった」という笑い話があるように、汁を節約してチコチコ節約し、かつお節マンに叱られながら食べたのではせっかくのソバがおいしくないではありませんか。

そうした理由から、私が典座をまかされた場合には諸老師方の叱責を右から左に聞き流し、ダシを効かせた薄目の汁をたくさん用意する主義です。

メールをいただいた○さん、そういうことですのでご理解下さい。

なんにせよ、ソバの汁がどうだとかいう話題でここまで盛り上がることができるとは、なんとも

平和で幸せなことですなあ。

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